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REPORTS レポート
2024年3月15日

グローバル難民フォーラムレポート「日本における事業や雇用を通じた難民包摂の 取り組み」(2024年3月 JBpress掲載)

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ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの衝突など国際情勢は混迷を極め、住む場所を追われる人々の数は増加の一途を辿っている。そのような中、2023年12月に、難民に関する世界最大の国際会議「グローバル難民フォーラム(GRF)」がスイス ジュネーブで開催された。本フォーラムは、2018年に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」で掲げられた目標実現のため、4年に一度開催されている。

今まさに企業が対応を求められる「ビジネスと人権」の文脈でも、難民の包摂は重要なアジェンダとなっている。国際社会の最前線で起きている議論、そして日本社会が取り得る難民包摂の方向性を、現地参加した筆者がレポートする。


※2024年3月1日付のJBpressの記事を一部変更して掲載しています。

「社会全体(whole of society)」で難民問題に取り組む必要性

ロシアによるウクライナ侵攻から2年が経過したが、戦闘は長期化しており、ウクライナから国外に避難した難民は全人口約4100万人のうち634万人以上 とされる[1]。また、パレスチナのガザ地区では、2023年10月7日からイスラエル軍とイスラム組織ハマスの衝突が続き、難民キャンプからパレスチナ人が避難を余儀なくされるなど、情勢は混迷を極めている。迫害、紛争、暴力、人権侵害などにより2023年時点で故郷を追われた人の数は約1億1170万人とされ、全世界人口の1%以上となる計算だ[2]。気候変動や自然災害により、2050年までに世界で12億人が避難する可能性があるという報告[3]もされており、増加の一途を辿る難民への支援は急務となっている。

世界的に難民問題に関心が高まる中、 2023年12月13日から15日にかけて「グローバル難民フォーラム(GRF)」がスイス ジュネーブで開催された。このフォーラムは2018年12月に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」の目標実現のため、4年に一度開催される難民に関する世界最大の国際会議だ。「難民に関するグローバル・コンパクト」は、「難民受け入れ国の負担軽減」、「難民の自立促進」、「第三国定住の拡大」、「安全かつ尊厳ある帰還に向けた環境整備」を大きなポイントとしており、「社会全体(whole of society)」で取り組む難民支援」の重要性を掲げている。

第2回目となった2023年のGRFは、日本、コロンビア、フランス、ヨルダン、ウガンダの 5 カ国が共同議長国を務め、スイス政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が共催した。政府、民間企業、国際機関、難民、市民社会の代表が世界中から一堂に会し、168カ国から4,200人以上、うち300人以上の難民代表が参加した。GRFの中心は、各国政府主導による 43 のマルチ・パートナーのコミットメントを含む、難民とその受け入れコミュニティの支援に関する1,600 件以上の宣言(プレッジ) の公表だ。ビジネスと人権社会全体で難民問題に取り組む必要性とベストプラクティス共有の場となったが、その中でもビジネスセクターの存在感は大きく、日本においても企業への要請が高まる「ビジネスと人権」の文脈でも重要な考え方が示された。筆者は11月開催の第12回「国連ビジネスと人権フォーラム」[4] とGRFの双方に参加したが、サイドイベントも含めると、GRFでは特にビジネスセクターの参画が活発だった印象だ。

2050年までに12億人を超える恐れの気候難民

今回のGRFでは、難民当事者が意思決定や支援主体に含まれる「難民の意義ある参加(Meaningful Refugee Participation)」が強調され、随所で当事者が寄り添うことの意義や有用性が説かれた。また、各国政府受け入れに限りがある中、大学や企業といった民間による受け入れ(Complementary Pathways)の事例も注目を集めた。UNHCRは、国際移住機関(IOM)や世界経済フォーラムの Refugee Employment Alliance[5] とも連携を進めており、受け入れ国で深刻化する働き手不足を解消する労働の移動性(Labor Mobility)の効果も発信された。雇用のみならず、起業家としての活躍事例を増やすための議論も多くなされた。例として、その規模18億人ともいわれるイスラム市場にはハラル食品やイスラム金融など成長市場が含まれ、難民起業家の活躍可能性が広がるとされた。

また、デジタル・ディバイド(ITを使いこなせる人と使いこなせない人との間に生まれる情報格差)と気候変動という新たな課題についても議論がなされた。例えば、難民が受け入れ国で労働者や消費者、起業家として真に包摂されるための方策として「デジタル包摂」が注目され、国際電気通信連合(ITU)を中心にデジタル・ディバイド解消のためのプレッジが発表された[6]。 コロナ禍を経て、リモートでの新たな教育や就労支援の形も生まれ始めている。また、新たな難民課題として急速に深刻度が増している「気候難民」への対応にも進展が見られた。気候変動の影響を受け、干ばつや洪水等により居住地域からの移動を余儀なくされる人々が増加しており、2050年までに12億人を超すとの予測もある。難民は人権問題であると同時に環境問題でもあることが、各国政府も含めて公式に確認されたことは新たな一歩だ。

議長国の日本から出された先進的な「プレッジ」

GRF共同開催国である日本からは企業を含む53のアクターが参加し、44のプレッジ[7]が発出され、今後4年間にわたる日本のコミットメントと存在感を示すこととなった。前回のGRF開催の2019 年に日本から発出されたプレッジが6件(うち、政府4件)のみであったのに対し、今回はNPO/NGOはじめ、教育機関や企業など多様なセクターから複数のプレッジが出され、 社会全体での難民包摂実現に一歩近づいた形だ。また、複数組織からなるコンソーシアム等の共同宣言も目立ち、より実行力の伴う取組みの加速に期待が寄せられた。難民の受け入れ後の教育や就労など包摂のための支援の形が拡充されたと言える。


(出所)一般社団法人Welcome Japan

特に、日本社会全体で多様な包摂の拡充を目指すプラットフォームである一般社団法人Welcome Japanからは多数のプレッジが提出されたが、そのうち、「産業界とのオープンイノベーションを通じた難民包摂」に係るプレッジは先進的な内容であった。難民包摂に取り組むビジネスリーダーが連携し、オープンイノベーションを加速させ、難民の自立と共生社会に向けたビジネス開発や雇用機会創出を通じた難民包摂市場の形成を目指している。難民の社会包摂においては、雇用を通じた取組みが非常に重要な意味を持つ。日本における難民包摂をビジネスセクターが担う観点で、注目に値する取組みとなるだろう。

先進的な企業による日本における難民包摂

日本では難民の包摂という概念は馴染みがないかもしれないが、事業や雇用を通じた包摂、コレクティブインパクトの組成の観点で、実は既に様々な取組みが行われている。

事業を通じた包摂の代表例は、株式会社LIFULLが行っている外国籍フレンドリーな不動産会社紹介事業「FRIENDLY DOOR」だ。外国籍やLGBTQ、高齢者、一人親といった、家を借りる際にハードルがある人と、そういった人々に理解がある不動産会社をマッチングするサービスだ。特に、難民・避難民が日本で安心して暮らせる環境を提供するため、居住支援法人であるメイクホーム株式会社と連携し、難民の人や支援団体向けに住まいの支援窓口を開設している。

雇用を通じた包摂では、日本の独自の取組みである「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム(JISR)」が成果をあげている。シリア危機により就学の機会を奪われた若者を修士課程の学生として迎え、その家族も含めてこれまでに152人を受け入れている。前回のGRFにおいても日本政府は本プログラムの拡大を宣言しており、この4年間で教育から就労という一連の支援モデルを構築した。卒業後の日本での就職率8割という成果を上げており、卒業生の中からはアクセンチュア株式会社への就職[8]などでキャリアを築く例も出ている。JISRの就労伴走支援には、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社、株式会社LIFULL、PERSOL Global Workforce株式会社の社員プロボノが協力しており、企業を巻き込んだプログラムに成長していることも注目に値する。2023年のGRFでもJISRを継続するプレッジが提出され、日本における官民連携の難民支援プログラムの拡大が期待される。

コレクティブインパクトは「異なるセクターにおける様々な主体(行政、企業、非営利団体、財団等)が共通のゴールを掲げ、互いの強みを出し合いながら社会課題の解決を目指すアプローチ」と定義され、難民包摂の観点では前述のWelcome Japanの取組みが新しい。2024年2月19日に、「産業界によるオープンイノベーションを通じた難民包摂」プレッジに賛同したビジネスリーダーと企業が参加するコミュニティ「Welcome Japan CxO Council」が発足した。株式会社商船三井、株式会社LIFULL、パーソルホールディングス株式会社を含む、20名のビジネスリーダーがCxO Councilに参加(2/19時点)している。難民の自立と共生社会に向けたビジネス開発や雇用機会の創出を推進していく予定で、今後の具体的な活動を通じた日本版難民包摂のコレクティブインパクト組成を期待したい。

日本に期待される難民との向き合い方

このように、日本においても先進的な企業は難民包摂に取り組んでいるが、日本だからこそできる難民包摂の方向性とはどのようなものか。

日本の難民対応の課題として、G7各国と比べて圧倒的に受け入れている難民の数が少ない ことが指摘されている。だが、人口あたり難民比率の少なさは、翻って手厚い支援予算(民間資金含む)の確保と分配を行える可能性があるとも言えるのではないか。少子高齢化や働き手の不足、都市化など、課題先進国である日本だからこそ、課題解決のために難民の力を活かす方向性もあるはずだ。例えば、2025年には国内で2,950万人のDX人材が追加で必要とされるが、この課題に難民と共に取り組むのが一般社団法人Robo Co-opだ。難民人材に英語で業務可能なITスキル学習を提供し、日本企業や自治体から受託するITプロジェクトに参画する機会を与えている。スキル習得だけでなく、就労機会まで担保し、難民がデジタル人材としてのキャリアを踏み出すきっかけを生み出しているのだ。また、Welcome Japanとも連携し、複数のIT企業を巻き込み、難民のデジタルスキル習得のための奨学金プログラムとインパクト・ソーシングを拡大している 。その他にも、Welcome Japanと不動産企業が連携し、人口減少と高齢化等により深刻化している空き家問題に対し、難民の住まい確保の課題とマッチングした住居支援プログラムの検討を進めている。受け入れコミュニティの課題解決と難民包摂を掛け合わせた取組みと言える。

今、企業に対して「ビジネスと人権」対応への要請が高まっている。日本においては、人権デュー・ディリジェンス(人権DD)等の「守りの人権対応」は企業の中でも加速しているが、世界各国では人権DDの法制化が検討されており、今後は対応して当然のものとなるだろう。そうすると、「自社が引き起こしているわけではない人権課題に対する主体的な取組み」、すなわち「攻めの人権対応」も求められていくはずだ。そのテーマの一つとして、難民の包摂に取り組むことは企業価値向上にも繋がるであろう。

また、日本企業において、ビジネスにおける「多様性」を再定義する重要性が高まっている。「多様性」と言うとジェンダーに焦点が当てられることが多いが、難民や外国籍の人々を含め、背景や出自も考慮した多様性を実現してこそ、真のDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)が達成される。また、雇用に限らず、自社サービスや製品の提供や、企業の社会的責任として寄付をすることも、難民の社会包摂、すなわち人権の尊重と共生社会実現への第一歩となる。

国際社会において、難民包摂に対する要請は高まっている。次回のGRFは4年後に開催される。そのときまでに日本における持続可能な難民の包摂を進展させるための「社会全体(whole of society)」での取組みが、今まさに求められている。

株式会社オウルズコンサルティンググループ
プリンシパル
大久保 明日奈

[1] 国連UNHCR協会、「ウクライナ」、2024年2月12日

[2] UNHCR, ”Global Appeal 2023”, February 24, 2024.

[3] Institute for Economics & Peace, “Over one billion people at threat of being displaced by 2050 due to environmental change, conflict and civil unrest”, September 9, 2020.

[4] JBpress「2023年に注目を集めた『ビジネスと人権』、その最前線で起きている新しい議論」、2023年12月25日

[5] World Economic Forum “Refugee Employment Alliance”, February 28, 2024.

[6] Connectivity for Refuges HP, February 28, 2024.

[7] UNHCR、「「グローバル難民フォーラム」の宣言(Pledge)とは?」、2024年2月12日

[8] JICA「日本で見つけた新しい希望と夢~母国シリアと日本をつなぐ1人として~」、2024年2月16日

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