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REPORT レポート・調査
2023年6月2日

在感増すグローバルサウス、アフリカが望む 成長と欧米中にはない日本の強み(2023年5月 JBpress掲載)

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アフリカの成長戦略を握るAfCFTAの理想と現実

 

多大な潜在力を秘める「最後のフロンティア」として、また米欧や中国とは異なるもう一つの軸として注目を集めているアフリカ諸国。主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)では、アフリカを含む「グローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)」との関わり方も重要な論点であった。

前回記事「岸田首相のアフリカ歴訪、この30年のカギを握るアフリカで日本は何ができるか」では、日本とアフリカの関わりにフォーカスして話を進めた。今回は、アフリカ自身が考える成長戦略について考察を深めたい。

 

 

アフリカ諸国が望む発展の形は、アフリカ連合が2013年に策定した「Agenda 2063」 という開発ビジョンに表れている。50年後の2063年を目標に、政治・経済・社会の複合的な視点からアフリカの成長を目指す長期ビジョンだ。今年は発足から10年目という節目の年である。

 

アフリカはかつて欧州諸国の植民地となった苦い歴史を持っている。その歴史を踏まえ、他国の介入や強制を伴うものではなく、“The Africa we want”、すなわち「アフリカ自身が望むアフリカ」を実現するという強い想いで策定されたのが、この「Agenda 2063」である。

 

「Agenda 2063」では、アフリカの人々が望む形を「7つの期待(aspirations)」として、その期待を実現するための施策として15の旗艦(flagship)プロジェクトを掲げている。「7つの期待」には、政治的な安定や法の支配、平和などの普遍的なテーマのほかに、アフリカの文化的なアイデンティティや価値観の共有、女性や若者、子どもの潜在能力の解放など、理想とするアフリカの姿が謳われている。旗艦プロジェクトには、インフラ整備、自由な移動や単一航空市場の創設、宇宙空間戦略、サイバーセキュリティ、アフリカ百科事典など、政治・経済のみならず、多岐にわたる計画が策定された。アフリカの自由貿易構想、AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)の設立も、旗艦プロジェクトの一つとして位置付けられている。

※2023年5月25日付のJBpressの記事を一部変更して掲載しています。

AfCFTAの希望と現実

 

AfCFTAとは、アフリカ連合加盟国のうち、エリトリアを除く54カ国が参加する大規模な自由貿易協定(FTA)構想だ。2019年5月に発効され、2021年に一部の運用が開始された。今後本格的に始動すれば、人口約13億人、GDPは3.4兆米ドルという世界最大級の経済圏になると予想されている。

 

FTAとして、域内関税を撤廃し、商品とサービスなどの自由な取引を目指す。また、非関税障壁を緩和し、域内での貿易を促進することにより、アフリカ経済の拡大を狙うものだ。

 

AfCFTAは二つのフェーズに分けて検討が進められる。

 

フェーズ1では物品貿易やサービス貿易、紛争解決規則・手順の検討、フェーズ2では補助金などの扱いを決める競争原則のほか、投資、知的財産、デジタル貿易、貿易における若者と女性について検討される見込みだ。

 

物品貿易の分野では、タリフラインベース(関税撤廃率)で90%以上の関税を撤廃すること、非対象品目を3%未満にとどめること、残りの7%はセンシティブ品目として、原則10年間で撤廃すること──などが合意に至った。

 

FTAの締約諸国間で生産されたことを特定する原産地規則や残った品目の関税率については協議中だ。サービス貿易についても、輸送、通信、観光、金融、ビジネスの5分野を優先的に扱うことで合意している。

 

昨今のFTA/EPAで不可欠とされているデジタル貿易に関するルール形成、すなわちデータローカライゼーションやデータ移転、消費者保護などについても前倒しで議論される見込みだ。各国の自国優先主義や西側と中国・ロシアのデカップリングが進む中、巨大な自由貿易圏であるAfCFTAにかかる期待は大きい。もっとも、一部運用から2年が経過しているが、アフリカ域内貿易比率は12%と、他地域に比べ低い状況にとどまっている。アフリカの持つ構造的な悪循環のため、思うような成果が出すことができていないことの表れだ。

 

 

アフリカの発展を阻む悪循環

 

構造的な悪循環はいくつも挙げられる。

 

例えば、農業生産性の著しい低さだ。アフリカでは労働人口の半分が農業に従事するが、小規模農家中心であるため生産性が低く、農作物を適正価格で売る販売網がない。また、植民地時代の残滓だが、アフリカの農業はカカオや綿花など輸出用の単一作物が中心で、穀物などの自給率は低い。自国で消費する小麦や米などの主要穀物はほとんど域外からの輸入に頼っている状況となっている。しかも、輸出のために単一作物の大量生産を繰り返したため、農地は痩せ始めており、新しい農作物の生産も困難だ。穀物を輸入に頼っているため生活コストが高く、国内総生産(GDP)の割に労働コストが高いという問題も抱えている。

 

近年は気候変動の影響も深刻化しており、アフリカの農家は気温の上昇、降雨量の変動、収量変動に対して脆弱だ。社会インフラ全般が未成熟なことも大きな課題とされる。例えば、サブ・サハラアフリカの電化率は35%程度で、特に農村部は19%にとどまっている。世界の未電化人口の半分以上がサブ・サハラアフリカに集中する計算だ。

 

高速道路や物流施設などの物流インフラの整備も求められている。アフリカでの道路舗装率は20%以下と言われている。物流網が整備されていないと、国内はもとより国境を越えた域内でのモノのやり取りが進まないことは明白だ。輸送や手続きに時間がかかるため、アフリカ域内よりも域外への輸送コストの方が安い状況になっている。

 

金融や医療などの不足も深刻だ。

 

 

工業化が進まない根本的な理由

 

例えば、日本も含めた多くの先進国では90%以上の人々が銀行口座を保有するのに対し、アフリカでは40%を下回る国が存在する。国によって基礎的な金融サービスへのアクセスに差がある状況だ。

 

正規の銀行との取引を利用できない人々は、貸金業者に頼らなければならない傾向が高いが、こうした業者は高い金利を課すことが多い。また口座を持たない人々は事業を立ち上げたり、予想外の事態に保険をかけることが難しい。製造業の基盤が未成熟だという点は、AfCFTAにおける物品貿易を妨げている大きな要因だ。

 

そもそもアフリカ諸国は農産物や鉱物資源のような一次産業が中心で、製造業が育っていない。産業別GDPに占める製造業の割合は、例えばナイジェリアでは8.8%、ケニアでは8.4%、ガーナでは4.2%といった状況だ。

 

非工業化(de-industrialization)に向かっている国もある。例えば、南アフリカのGDPに占める製造業の割合は、現在14%となっており、過去のピーク時に26%あった割合が低下してしまった。エチオピアなどは繊維・縫製業など軽工業を中心に海外企業の誘致に取り組んでいるが、自動車などの大規模雇用を創出する産業が育つまでの道のりは長い。物流インフラが乏しい上に労働コストも高いため、海外の企業が拠点を作ろうにもその選択肢にならないのだ。日本に対して製造業の基盤作りを期待する向きもあるが、前回記事で述べたように、広大でかつインフラが整っていないアフリカでは、東南アジア諸国連合(ASEAN)型の支援モデルは通用しない。

 

インフラや裾野産業が未発達であるためアフリカ大陸内でのサプライチェーンがつながっておらず、輸出のほとんどが域外向けになっている。社会インフラの不足もアフリカの成長を阻む要因とされる。

 

AfCFTAには、このような悪循環を抜け出し、工業化による発展を目指す狙いもあったが、理想と現実のギャップは大きい。このような構造的な歪みを早急に解決しない限り、高い理想とともに打ち出されたAfCFTAへの期待が徐々に減退していく可能性も懸念されている。

 

 

アフリカの未来を変える打開策としてのデジタル

 

これらの問題を打開する新たな一手として、新たに注目されているのがデジタル分野の強化だ。新しい農作物を作る、製造業を育てるなどの直接的な産業振興に注力することに加え、インターネットやITインフラなどデジタル技術を強化することで一足飛びの成長を促そうという試みである。

 

実例として、2016年のルワンダの例がある。道路舗装すらままならなかったルワンダの地に、米国のスタートアップ企業がある種実験的にドローンによる医療物資の輸送業務ビジネスを展開したところ、輸送血液や医療資源など必要な物資の運搬を短時間で効率的に行うことができるようになった。結果、多くの人命救助につながっている。

 

また、2007年にケニアで開始されたモバイル送金サービスM-PESA(エムペサ、PESAはスワヒリ語で「お金」の意味)は、今は欠かすことのできない社会インフラとなっている。ケニア国内では約3000万人がM-PESAを使用しており、普及率は約74%、総取引額はGDPの約50%という驚異的な数字だ。ケニアには農村から都市部に出稼ぎに行く貧困層も多いが、金融機関の口座を持っておらず、家族に安全に送金できない状況だった。その一方で、携帯電話の保有率は高く、そこに着目した安全で手軽な「M-PESA」の送金サービスは瞬く間に受け入れられ、貧困層の金融包摂とケニア経済の活性化に寄与している。
このように、IT技術とアフリカの抱える課題をうまく組み合わせることができれば、先進国が段階的に踏んできた発展を飛び越えた「リープフロッグ型」の発展が期待できるはずだ。もちろん、一口にデジタル分野の強化と言っても、支援を考える諸外国、何よりアフリカ自身にとって、具体的にどのような形でデジタル化を図るかは明確ではない。

 

その中で日本には何が期待されているのか。

 

ソフトウェアの実装において、日本が米国や中国に肩を並べることは容易ではない。その日本ができることは、雇用創出などを伴う経済成長に貢献することではないだろうか。それが、アフリカが日本に期待するところでもある。例えば、アフリカではデジタル化における重要なインフラであるデータセンターが不足しているが、建設・運用時には多くの雇用が創出される。気候変動対策の重要性が増す中、環境配慮型データセンターの敷設・運用支援はアフリカが求める支援の一つだろう。また、資源供出にとどまっているバッテリー産業の高度化およびアフリカ内資源循環性の構築も、アフリカの発展に貢献できる可能性があるのではないか。

 

アフリカでは、日本はいまだに「ものづくり大国」のイメージが強い。日本ならではの方法で、アフリカの発展に貢献していくことが求められているはずだ。

 

株式会社オウルズコンサルティンググループ
プリンシパル
大久保 明日奈

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