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2021年10月28日
ルール形成・標準化

置き配泥棒も増加?外出自粛のもう一つの負の側面(2020年4月執筆記事)

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2019年12月に中国湖北省武漢市で確認された新型コロナウィルス感染症(COVID-19)については、日本を含め世界中で様々な対策がとられているが、流行収束にはまだ時間を要する。
新型コロナウイルス感染症は、空気感染は想定されにくい一方で、人との濃厚接触による飛沫感染などのリスクが極めて高いとされ、接触を避けるため「Stay Home」が世界中で強く呼びかけられている。日本では、4月に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令され、各地方自治体において、法に基づく外出自粛要請や店舗など施設の使用制限要請などによる外出抑制が図られた。

※2020年5月17日付けのJBpress掲載記事を一部変更して掲載しています

I. 街頭の安全を守ってきた「人の目」

一方、人々が外出しなくなるということは、すなわち路上を通行する人々が減少するということだ。国内外で、人通りがなくなり閑散とした街に不安を感じる声も少しずつ表面化しているようだ。
人々が何気なく外を歩くことにより生まれる「人の目」は、防犯上重要な意味をもってきた。
米国や英国の影響を受け、1980年代から日本に取り入れられた「防犯環境設計」(CPTED/Crime Prevention Through EnvironmentalDesign)という概念がある。これは、犯罪が発生しにくい環境を創るために、人的な防犯活動(ソフト面)とあわせて、建物、道路、公園等の物理的な環境(ハード面)を整備・強化し、犯罪の起きにくい環境を形成するという考え方である。
その中では、周囲からの見通しを確保する「監視性の確保」が重要な要素とされ、「死角」のないまちづくりにより「人の目」の犯罪抑止効果を最大化することが推奨されてきた。
これを踏まえると、外出自粛の⻑期化、社会全体の行動変化により街を歩く人が激減することは、安全・安心な街を支える当然の前提とされてきた「人の目」の減少、ひいては犯罪抑止力の低下をもたらす可能性がある。

II. 「人の目」の犯罪抑止効果を試算

では、これまで「人の目」はどの程度の犯罪抑止効果を担ってきたのか。そして、新型コロナウイルス感染症流行を受けた外出の減少は、犯罪抑止効果にどの程度影響するのか。「人の目」の存在による犯罪抑止効果と「防犯カメラ」の存在による犯罪抑止効果をそれぞれ指数化し、対比することによりインパクトを定量的に試算した。
今回は、国内で最も人口の多い東京都を対象に試算を実施。「人の目」や防犯カメラが持つ犯罪抑止力については、道路上でその存在をはっきり認識できる範囲の面積(=効果が及ぶ広さ ※下記イメージ図参照)と、犯罪を犯そうとする者が犯行を思いとどまる確率(=効果の強さ ※過去の調査結果を参照して算出)の2つの要素を掛け合わせて指数化した。
新型コロナウイルス感染症流行以前に生じていた「人の目」による犯罪抑止力(1日あたり総合計・指数)を推計した上で、緊急事態宣言下である現時点(試算を行った2020年4月中旬時点)における減少量を算出。現在の外出自粛レベルが今後もそのまま継続するものと想定し、犯罪抑止力の減少量を、防犯カメラ1台あたりの犯罪抑止力で割り込んで台数換算した。

 

 

 

III.「置き配」の盗難リスクも増大か

試算の結果、外出の減少により東京都内で「人の目」が30%減少した場合、1日につき防犯カメラ約60万台分の犯罪抑止力が失われることが分かった。これは、2016年時点でおよそ25万台とも言われる都内防犯カメラ台数のおよそ2.4倍にあたる。
当然、「人の目」は移動しながら道路上に偏在しているため、狭い範囲に「人の目」が集中している区域では少ない防犯カメラ台数で多くの「人の目」を補うことができ、閑散地ではその逆が言えるため、単純に60万台の防犯カメラを追加設置するべきという結論とはならない。また、防犯カメラは犯罪抑止に加え「犯罪の発見」や「証拠の保存」といった機能を有するため、実際の設置に際してはそれらの点も踏まえて総合的に検討されるべきだろう。
新型コロナウイルス感染症流行は⻑期化する可能性もあり、また、流行収束後もテレワークの拡大などにより人の移動減少が常態化することが考えられる。街の防犯環境に生じる負のインパクトの可能性を念頭に置き、対処を具体的に検討しておくことが重要だ。
「人通りがあるので大丈夫だろう」「人目がある中では××しないだろう」という前提のもとで機能している社会の仕組みや行動様式、ビジネス手法については、その前提が崩れることによるリスクが生じる。
たとえば、子どもが単独で登下校する仕組み、下校後に子ども同士が公園などで遊ぶ習慣などだ。これらは、普段意識されているか否かにかかわらず、周囲に一定の「人の目」があることにより安心して行えるものと見なされてきた。「人の目」がなくなった場合、子どもたちは今よりも無防備な状態となる。安心して子どもを登校させることや、放課後に子どもを一人で遊びに送り出すことが難しくなる可能性がある。
トラックドライバー不足の中で宅配・EC業界に広がりつつある「置き配」も、リスクが増大する行為の一つだろう。
「置き配」とは、宅配ボックスがない場合に玄関脇や自転車のかごなどに荷物を置くことで引渡しを行うサービスだ。オープンスペースである玄関脇に置かれた荷物は、通常であれば盗難のリスクにさらされるが、通行人や近隣の「人の目」があることでそのリスクが軽減されてきた。「人の目」減少によりリスクが増大した場合、消費者からの懸念が強まることに加え、企業側でも、「置き配」実施で削減できる配送コストと保険・保障などの必要コストのバランスが崩れる可能性がある。
このほかにも、店頭に広く商品を陳列して顧客を誘引するタイプの企業・店舗で盗難リスクが高まるなど、様々な業種・業態への影響が考えられる。

IV. 基本思想の転換による社会の見直しが必要

犯罪抑止力の低下に対応する上では、これまでの不特定多数の「人の目」に守られることを前提とした基本思想を転換し、社会システムそのものを見直す必要があるだろう。
前述の「防犯環境設計」の考え方を一部修正し、周囲の不特定多数の人ではなく、「特定の信頼ある人々」による相互の見守り合いを志向することが一案ではないか。周囲の通行人から見えやすい位置取りが重視されてきた公園について、特定の集合住宅や公共施設から自然な視線が頻繁に注がれやすいロケーション設計へと転換する。宅地構造についても、例えば放射線状に住宅を配置するなど、「特定の信頼ある人々」が相互に侵入者を発見しやすい空間デザインの工夫を取り入れる。
まちづくりの転換には⻑期間を要し、市⺠の意識改革も必要となる。「コロナ後」に対応した設計思想の迅速な構築が必要だ。
また、日本における「監視」の概念自体が問い直される契機にもなり得る。
「監視社会」などの言葉に代表されるように、従来、日本では「監視」とは「個人の行動を見張り、プライバシーを侵害する行為」と捉えられやすく、防犯カメラの増設も忌避されがちな傾向にあった。しかし、前述のように「人の目」に頼れない状況下では、監視・防犯のための新たな仕組みが求められる。
「人を見張る」のではなく「街を見守る」という考えの下、個人のプライバシーも尊重しつつ、安全のための「監視」を実現できるような仕組みが模索されていくだろう。新型コロナウイルス流行前から官⺠で検討しているSociety5.0での社会設計にも、新たな生活様式を踏まえた反映がされることになるだろう。
「見えない」ウイルスと戦いながら、人から「見られない」ことで生まれる危険からも身を守らなければならない。企業にも個人にも、より高度なリスク判断とリテラシーが求められている。
株式会社オウルズコンサルティンググループ
マネジャー
坂田 惟之
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