※2020年3月9日付の繊研新聞の記事を一部変更して掲載しています
近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します。
世界経済フォーラムの2019年の調査によると、調査対象28カ国平均のSDGs(持続可能な開発目標)認知度が74%だったのに対し、日本は49%と最下位。市民のSDGs認知度は、近年着実に伸長していますがいまだ低水準です。
その日本でも、世界に遅れつつも近年SDGsの取り組みが加速しています。
これまで日本では、SDGsに貢献するビジネスの主な原動力は海外からの要請でした。SDGs対応で先行する欧州での環境・人権関連ルールや、海外大手流通のサステイナブル(持続可能)な調達基準への適応の必要性が増えてきたのです。グローバルビジネスを重視する大手企業は、問題が発覚した他社での深刻なビジネス損失の報道に触れ、リスクマネジメントの観点でこの取り組みを加速させました。2018年の経団連の調査では、売上高5000億円以上の企業の75%がサステイナビリティー要素を中長期経営計画に反映しています。企業の中長期的な持続可能性や価値創造を説明する統合報告書などの発行企業は2019年には国内500社を超えました。日系アパレル最大手ファーストリテイリングも海外競合に劣らず環境負荷の軽減や労働環境の整備などを進めています。
一方で今注目が集まっているのは、中堅・中小企業のSDGsへの取り組みです。従業員数8人の太陽住建は2019年にニューヨークでのSDGsに関する「国連ハイレベル政治フォーラム」で自社の取り組みを紹介し、世界の舞台に躍り出ました。日本リユースシステムは、古着を回収し開発途上国で販売して雇用を生み、古着回収キット一つごとにワクチンを寄付する事業で、目標1「貧困」や目標12「生産・消費」などに貢献したとして、SDGs推進本部によるジャパンSDGsアワードを受賞。土佐経済同友会は産学官金連携委員会の基本方針でSDGsビジネスの活動の推進を明言するなど、地方でも取り組みが強化されています。
中小企業が動き出した背景は、規制強化や調達基準対応等に加え、SDGsへ取り組むメリットの拡大にあります。地方の中小企業がまず注目するのは、人材採用での競争力の強化です。ミレニアル世代やZ世代(1981年以降に生まれた若者)は社会課題への関心が特に高く、就職活動の際も企業の社会貢献度を重視しています。消費者庁の2016年の調査では、「価格が上がってもエシカル(倫理的)な衣料品を購入する」と考える消費者が6割を超え、顧客単価の引き上げの一手となり得ると分かってきました。
海外からの圧力を背景に「守り」のリスクマネジメントとして進んできた日本のSDGsへの取り組みは、自社の利益を伸ばす「攻め」の施策への転換期を迎え、更なる加速をはじめています。
繊研新聞(2020年3月9日付)
株式会社オウルズコンサルティンググループ
マネジャー
潮崎 真惟子
マネジャー
潮崎 真惟子