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REPORT レポート・調査
2021年7月6日

【連載】繊維・ファッション業界の指針となるSDGs -グローバル企業の調達ガイドラインの変化-(2020年3月執筆記事)

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※2020年3月2日付の繊研新聞の記事を一部変更して掲載しています
近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します。
原材料やサービスの調達における取引先への要求をまとめた「調達ガイドライン」が、企業のSGDs(持続可能な開発目標)の取り組みに大きな影響を与えつつあります。サプライヤーが環境・人権面への対応を求められるケースが増えているからです。
例えば世界最大のアパレル製造小売りのインディテックスは、調達ガイドラインで取引先に人権への対応を要求しています。同社と取引ができるのは取引開始前と取引期間中の監査で調達基準を満たした企業のみであることが公表されています。「グッチ」などのブランドを擁するケリングは、調達ガイドラインを通じてサプライヤーに環境面の改善を求めています。環境損益計算書という仕組みでサプライチェーン内の環境負荷を可視化したところ、最終ブランドメーカーの目が行き届きづらい原材料生産と中間加工の環境負荷が最終工程よりも高いと判明したことによる施策です。
流通や小売りも、環境・人権の観点で扱うブランドを選別しています。世界最大の小売業のウォルマートは、「サステナビリティ・インデックス」というガイドラインで商品を評価しています。米国店舗で販売される商品の70%以上はこの指針に関連するコンソーシアムに参加するサプライヤーの製品で占められていると公表しています。
調達ガイドラインの変化は日系企業でも始まっています。ファーストリテイリングと取引するサプライヤーは、人権の尊重が求められています。取引先工場の労働環境をモニタリングしており、要求水準に応じない企業との取引停止を公表しました。環境・人権面の対応を怠ると、大きなビジネスチャンスを逃すことにつながりかねません。
これら企業の調達ガイドラインを変化させているのが国際ルールや業界団体の指針です。パリ協定採択後の2018年、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)のもと、グローバルのブランドや小売業者の間で「ファッション業界気候行動憲章」が合意されました。2050年までのゼロ・エミッション達成を目標に掲げ、生産段階の脱炭素化、持続可能な素材選択などを具体策に含んでいます。アシックスやファーストリテイリングなどを含む97社が署名し、その後、複数のブランドがサプライチェーンにおける環境指針を発表しました(2020年2月時点)。
日本でも今年、各社が新たな調達ガイドラインを作るきっかけが用意されています。「ビジネスと人権に関する国別行動計画」(NAP)が公表されれば経団連や業界団体が指針を出し、各社がそれに応じることでしょう。環境・人権への配慮は、グローバル展開する企業だけに求められるものではないのです。
今から環境・人権対応を始めることは、取引先の調達ガイドラインの変化に備え、ビジネスを守ることにつながります。

繊研新聞(2020年3月2日付)

繊研プラス:https://senken.co.jp

株式会社オウルズコンサルティンググループ
プリンシパル
大久保 明日奈
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