• TOP
  • レポート・調査一覧
  • 「模倣品工場」として進化し続ける中国、 模倣品被害を防ぐにはどうすべきか?(2023年12月 JBpress掲載)
REPORT レポート・調査
2023年12月18日

「模倣品工場」として進化し続ける中国、 模倣品被害を防ぐにはどうすべきか?(2023年12月 JBpress掲載)

PDF DOWNLOAD

模倣品被害の拡大が止まらない。その最たる理由はEコマースの拡大であり、今後も被害は悪化の一途をたどるように思われる。一方で、日本企業は模倣品被害に真剣に取り組んでいないように見える。製品の商品力で勝負してきた日本企業は、ブランド力を伝統的に重要視してこなかったため、模倣品に対する危機意識が乏しいことがその最たる原因だ。

 

日本企業の危機意識を高めて、模倣品対策に力を注ぐように行動変革を起こすためのエコシステムの形成が求められる。

 

 

※2023年12月11日付のJBpressの記事を一部変更して掲載しています。

 

模倣品汚染を広げているEコマースの急拡大

 

模倣品(商標権・意匠権を侵害する物品を指す)の被害が悪化の一途をたどっている。OECD(経済協力開発機構)によると、全世界における世界における模倣品被害は2013年時点の4610億ドルから2019年には5090億ドルに拡大したとのことだ。これは全世界の貿易額の2.5%に当たるという驚くべき結果となっている。

 

模倣品被害拡大の原因は大きく二つ存在する。まず、Eコマースの進展がその最大の原因となっている。かつての一般的な貿易取引においては、単一商品が大きなロットで輸送されることが多く、税関においての取り締まりも比較的容易であった。ところが、Eコマースが進展したことで、コンテナに多種多様な商品が混在して運搬されることが通常となり、税関にて全ての荷物を検査することは不可能になった。模倣品の混入を食い止めることが困難なのだ。OECDが模倣品被害額の試算を発表した2019年当時より、当然現在の方がEコマースは進展しており、被害もより一層拡大していると見て良いだろう。アマゾンは2022年1年間で約600万点の模倣品を差し押さえていることからも、ネット取引における模倣品の汚染具合は一目瞭然である。中国における模倣品製造技術の定着化も大きな要因だ。

 

 

強化されている中国での“模倣品製造力”

 

世界に流通する模倣品の大部分は中国と香港で製造されていることは周知の事実であるが、ポイントは中国や香港では、模倣品製造業者が容易に製品を作れる設備が大量に存在している点だ。つまり、中国における「モノづくり力」が強化された結果、大企業の二次請、三次請といった末端の工場まで一定レベルの工業品の製造が適うようになり、大企業による発注が得られなくとも、既に獲得した製造ノウハウで模倣品を製造し販売する力がついているのだ。さらに、中国は法による模倣品対策の取り締まり策が強化されているとはいえ、中国の景気後退傾向により、製造業における遊休資産が拡大していると考えられ、模倣品製造に手を出す業者が増えていると推測される。

 

実際に、先般弊社が発表した日本企業が受けた模倣品の被害額推計値は約438億ドル(約5.8兆円)となり、2020年の294億ドルより大きく拡大していると推計される(以下グラフ参照)。

 

 

日本は島国であるため、これまでは税関による取り締まりで模倣品は一定はねのけられていたと考えられるところ、小包等の小ロットの貿易取引が急拡大したことにより、被害額も大きくなっていることが一因だ。

 

 

日本企業がブランド保護に無頓着だった理由

 

模倣品被害が拡大し続けている現状において、しっかりとした対策を取れている日本企業はほとんど存在しないと言っても過言ではない。これは経営者のマインドが模倣品対策に向いていないからだ(SIXPAD等の健康/美容製品を製造・販売する株式会社MTGのように経営陣が自社模倣品を市場から排除することに意欲を持つ会社は徹底した対策を取っている)。一部の企業を除いて、模倣品の被害は直接的には企業の売上高を毀損しないことが多い。模倣品は正規品よりも品質が悪いものが安く販売され、かつ正規ルートでは売られていないことが多いため、企業の既存顧客は基本的には模倣品を正規品と誤認して購買することがないからだ。

 

従って、経営者にとっては重要なイシューとはなりにくいが、その一方で模倣品が多いことは企業のレピュテーションをじわじわと損なっていくため、中長期的には「ブランド力」を傷つけることにつながる。ここに欧米企業は気付いている。自社の「ブランド力」を保持するため、徹底的に模倣品を市場から排除するように、徹底したパトロールによる摘発。司法の活用、ブロックチェーンやAI等の技術の活用等ありとあらゆる手段を講じている。実際、欧米企業は模倣品対策に数億円から数十億円の予算を用意し、本社に模倣品対策の人員を数十人程度充てているのに対し、日本企業においては予算が1000万円に満たない企業が多数であり、人員も数人で対応しているのが現状だ。具体的にはHPやフォードといったアメリカの製造事業者は模倣品対策に十分な予算と人員を充てられ、追加予算要求も通りやすい模様だ。

 

この背景の一つに、伝統的なマーケティング戦略の違いが挙げられる。欧米企業は自社製品の歴史や伝統を含んだストーリーを最重要視し、顧客に製品そのものに加えてストーリーを付加し、「ブランド力」として訴求することで販売していく。価格は製品のブランド力を加味したバリューベースでつけられる。一方で、日本企業は製品の良さそのもの、「商品力」で勝負してきた。価格は製造コストに上乗せする考え方が一般的だった。つまり、日本企業は商品開発力の源泉である特許は徹底的に守る一方で、ブランド力の源泉である商標や意匠はあまり守ってこなかったのだ。実際に、少々古いデータではあるが、2016年の中国における商標権侵害の民事訴訟原告国別案件数は16件と117件のアメリカに遠く及ばず7位であるのに対し、同年の特許権侵害の民事訴訟国別案件数は29件とアメリカについで2位となっている。

 

 

模倣品対策の強化のためにすべきこと

 

模倣品被害を食い止めるため、被害者である日本企業による対策の強化が必須だが、経営者のマインドセットを変えていかないと対策の予算や人材がつかない。現在では模倣品対策に活用可能な各種先端技術(ホログラムやブロックチェーン)を用いたサービスが提供されているが、そうした技術を活用したくても予算がないという悪循環に陥っているのが現状だ。そこで、日本企業を取り巻く模倣品対策強化のエコシステムを形成していくことが重要ではないかと筆者は考えている。例えば、個社別に模倣品被害額を推計するコンサルサービスを提供する事業者を育てていくことで、個社の模倣品被害額を「見える化」し、日本企業の危機感を高めていく。そこから模倣品対策に充てる予算や人材を厚くし、模倣品対策技術やサービスを提供する企業への資金とすることが考えらえる。

 

こうすることで模倣品対策技術やサービスを提供する企業の商材の品質も向上し、より安価になるためさらに企業による対策も強固になる、という良い循環になるはずだ。こうした良い循環を生み出すための国家戦略を考え出すエンジンとしての機能は政府の役割が大きいと考えられるところ、これまで特許庁内に「模倣品対策室」という一つの室として設けられていた機能が、今年から国際協力課 海外展開支援室の一組織に吸収された模様だ。被害の拡大に相反して、政府の模倣品対策の機運が低下しているのではと見られると懸念される。官民一体となった模倣品対策に係る戦略の再構築が望まれる。

 

 

 

株式会社オウルズコンサルティンググループ
プリンシパル
佐藤 維亮

 

 

 

/contact/