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2023年3月13日
SDGs・サステナビリティ

「消費者の権利」としての持続可能性(2022年11月 月刊アイソス掲載)

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「社会課題解決のためのルール形成最新動向」と題し、本連載では環境や人権といった広範なサステナビリティ関連テーマにおける最新のルール形成の動向について論じる。第2回目の本稿では、人権の中でも特に「消費者の権利」に焦点を当て、欧米でのルール形成について解説する。
※月刊アイソス2022年11月号に寄稿した内容を一部変更して掲載しています

「消費者の権利」の広がり-安全・健康から「持続可能性」まで

2011年に国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」は、企業に人権を尊重する「責任」があることを初めて明記した。

国際的なルールで企業が留意すべきとされる人権リスクの範囲は非常に多岐にわたる。ハラスメントや長時間労働等、人権リスクの種類だけでなく、人権の主体(誰の人権か)についても考慮しなければならない。

人権の主体は必ずしも自社の従業員に限られるわけではなく、例えばサプライヤー企業の従業員や自社工場の周辺地域の住民等、事業活動に関わるあらゆるステークホルダーが含まれる。ここでは企業の主要なステークホルダーの一つである「消費者」に焦点を当てたい。

「消費者の権利」の侵害と聞いて何を思い浮かべるだろう。

真っ先にイメージしやすいのは2000年代に国内で相次いで発覚した食品偽装や自動車部品の欠陥の事案等ではないだろうか。実際、前述の国連の指導原則の解説資料では「生存権」や「健康に対する権利」を消費者の権利の具体的内容として示しており、これらの権利が侵害される例として「致死的欠陥のある製品の製造及び販売」や「エンドユーザーや顧客の健康にとって有害となる製品の販売」を挙げている。

しかし「消費者の権利」は安全や健康に関するものに限られない。近年注目すべきは、様々なルールで「持続可能性」に関する消費者の権利が規定されていることだ。

例えばOECDの多国籍企業行動指針(2011年改訂)では、消費者には「持続可能性について知る権利」があるとしている。環境問題や持続可能な消費に関する消費者の興味の高まりに鑑みると、エネルギー効率等の情報が提供されるべきだという。OECDの指針よりもさらに一歩踏み込んで、消費者には「持続可能性そのものへの権利」があるとしているのがISO26000(2010年)だ。

消費者は、「選択及び購買の意思決定の際に,正確な情報に基づいて倫理的,社会的,経済的及び環境的要因を考慮することを通じ,持続可能な発展において重要な役割を果たす」とした上で、消費者には「健全な生活環境の権利(現世代及び次世代の福祉が脅かされることのない環境への権利)」があるという考え方を示している。

持続可能性に関する消費者の権利の一例:「修理への権利」

「持続可能性」については安全や健康に関する権利と異なり、ビジネス上どのような場面で配慮が求められるのかイメージしにくいかもしれない。そこでここでは環境面での「持続可能性」に関する権利の一つと見ることができる「修理への権利」に注目したい。

国連によれば、2021年の世界の電気・電子廃棄物は5700万トン以上にのぼり、環境面での悪影響が懸念されている。この背景には、消費者にとって「修理よりも廃棄」が合理的な選択となっていることがある。

従来メーカーは自社で/特定業者を指定して修理を独占してきたため、保証期間を過ぎてから製品が故障した場合に修理を依頼すれば高額の費用がかかり、買い替えた方が安価で済む。部品が一定期間を過ぎると使用不可能になったり、部品が取り出せない / 交換できないような製品設計になっていたりすることで、そもそも修理自体が不可能な場合もある。

そこで製品設計や保証の在り方を見直したり、製品の所有者自身での修理を可能としたりすることで消費者に「修理への権利」を保障し、製品を廃棄させずできるだけ長く使用できるようにすべきとの考え方が出てきた。この後に見るように、「修理への権利」の保障は、単に理念として掲げられているだけでなく、メーカー側のビジネスの在り方を大きく変えるルール形成の動きにまで発展している。

欧州:サーキュラー・エコノミー政策の中で「修理への権利」関連のルール形成が進展

近年、欧州では政府がサーキュラー・エコノミー政策を主導する中で「修理への権利」に関するルール形成が進展している。

サーキュラー・エコノミーとは「従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」のリニアな経済(線形経済)に代わる、製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小化した経済(*1)」を指す。

「修理への権利」の保証は「製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持」することに貢献するものであり、サーキュラー・エコノミー政策の一つの重要な柱だ。

2020年に策定された「循環経済行動計画」には「修理への権利」を確立する旨が明記されており、企業のバリューチェーン全体を通じて「修理への権利」強化に向けた様々な施策が検討されている。

例えば製品の設計・製造段階では、2009年策定のエコデザイン指令の見直しが予定されている。同指令は従来エネルギー関連製品について環境に配慮した設計を要求するものだったが、今般対象製品を全ての物(physical goods)に拡大し、設計段階での要求事項に「製品の修理可能性」等を新たに追加することとしている。

今後欧州委員会が欧州標準化委員会(CEN)・欧州電気標準化委員会(CENELEC)とも連携して製品分野ごとにさらに詳細なルールを検討する見込みだ。製品の販売段階では、消費者権利指令等を改正し、事業者が契約時に開示すべき情報として「修理可能性スコア、またはスペアパーツ(交換可能な部品)や修理マニュアルの入手可能性」等が追加される予定だ。

アフターサービス段階では、「物品の売買契約に関する指令」を改正し、現在メーカーに無償での修理が義務付けられる2年間の保証期間を延長することや、保証期間を超えても一定のケースでは無償での保証を義務付けること等が検討されている。

各国でも「修理への権利」に関する法整備が進んでいる。例えばフランスでは2020年にノートパソコンや携帯電話、テレビ等の製品について、スペアパーツの入手可能性や解体のしやすさ等に基づき1~10点で評価する「修理可能性スコア」を明示させる法律が欧州で初めて成立し、2021年から施行されている。

 

米国:「競争政策」として議論が始まった「修理への権利」が環境の文脈でも注目

一方、米国でも「修理への権利」に関するルール形成が進んでいるが、欧州とやや文脈が異なる点には注意しなければならない。

米国では既に10年以上前から「修理への権利」に関する議論があり、2013年にはマサチューセッツ州で自動車分野での「修理への権利」に関する法律が成立している。ただし従来「修理への権利」は環境政策というよりも競争政策の文脈で議論されることが多く、メーカーが独占してきた修理ビジネスの市場競争を促進することに主眼が置かれてきた。

しかし、近年市民団体や投資家等の様々なステークホルダーが「環境」の文脈で「修理への権利」に着目しており、企業側もそれを意識して行動せざるを得なくなっている。

例えば2021年には米国でESG投資を推進する市民団体As You SowがIT大手のマイクロソフトに対して「消費者や独立した修理事業者が同社の製品を修理しやすくなることの環境面・社会面での便益を調査・報告する」よう求める旨の株主決議を米国証券取引委員会に申請した。

マイクロソフトは、同団体の動きを受け、2022年末までに消費者の修理オプションを拡大すると表明。2021年内に電子機器等のリペアビジネスベンチャーであるiFixitと連携した部品の提供等を開始している。

 

近年米国政府で「修理への権利」関連のルールが検討される際にも「環境」の側面が明確に意識されていることが見てとれる。

2021年に米国連邦取引員会が公表した報告書では、「修理への権利」の保障は製品の長寿命化につながり、電子廃棄物の削減に貢献するとしている。

2022年にはニューヨーク州でデジタル電子機器を販売する全メーカーに対して、デジタル電子機器の部品や説明書等を消費者等に提供することを求める「Digital Fair Repair Act」が提案されたが、その際ニューヨーク州議会議員は同法が電子ゴミの削減に貢献するものだとコメントしている(*2)。

「持続可能性」に関する権利の今後

欧州と米国で文脈は異なれど「修理への権利」への関心が高まり、ルール形成が進展していることを見てきた。「持続可能性」に関する権利の内容は今後も時代とともに少しずつ変化していくと考えられる。

技術革新によりそもそも壊れない(永久に持続する)部品等が出てきた場合「修理への権利」という概念自体が不要になる可能性もある。さらに環境分野だけでなく社会分野での「持続可能性」に関する消費者の権利というテーマが出てくる可能性もある。

例えば「製品が児童労働や強制労働等の人権侵害を経て製造されていないかどうかを知る権利」等が問われることもあるかもしれない。

2019年にはサムスン電子がフランスの消費者法第112条(消費者が誤解しかねない内容の広告やマーケティングを禁止)に反するとして市民団体から起訴されたが、その中身が注目に値する。通常「誤解しかねない内容の広告やマーケティング」と言えば製品のスペック等が想起されるが、本件では同社がアジア工場で労働災害や超過勤務等を引き起こしていたにもかかわらず、ホームページ上で「すべての労働者の人権を尊重している」としたことが「消費者に誤解を与える」として問題視された。

消費者の権利における「持続可能性」の動向を先読みしてビジネスの中で考慮していくためには、海外でのルール動向はもちろんのこと、市民団体や投資家等の様々なステークホルダーの主張・関心事項にも常にアンテナを張り続けることが求められるだろう。

 

 

*1:環境省、経済産業省資料「サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環分野の取組について」(令和2年5月18日)による定義
*2:Business Standard, “US passes world’s first ‘right to repair’ law for digital electronics”, 4th June, 2022

 

 

株式会社オウルズコンサルティンググループ
マネジャー
石井 麻梨

 

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