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REPORTS レポート
2026年3月3日

今後も要注意のトランプ関税-日米合意も履行継続(2026年2月 JBpress掲載)

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※2026年2月24日付のJBpressの記事を加筆修正したものです。

米最高裁の違法判決により、相互関税などのトランプ関税の一部が無効となった。トランプ政権は、これまでのように大統領令によってほぼ制約なく関税を賦課することはできなくなった。他方で、短期的には日本企業の対米輸出はこれまでのよりもむしろ不利になるおそれがある。ただし、この状況は一時的なものとなるだろう。では、今後のトランプ関税はどうなっていくのか。また、日米関税合意はどうなるのだろうか。

米最高裁の違法判決

2026年2月20日、多くの人が持ち望んでいたトランプ関税に関する米最高裁判所の判決が出た。大方の予想通り、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくトランプ大統領による関税の賦課が違法とされた。米国においては憲法上、関税賦課は議会の権限であり、同法によって議会は大統領に対してその権限を授権していないというのが主たる理由だ。

同判決によって、IEEPAに基づいて発動されていた①日本を含む多くの国に課されていた相互関税、②中国・カナダ・メキシコに課されていた違法薬物(フェンタニル)の流入等を理由とした関税、③ブラジルに課されていた関税などが無効となった(図表1)。これまでに徴収された1750億ドルともいわれる関税の還付が問題となるが、これについて最高裁判決は言及しておらず、今後の司法判断を待つことになる。

図表1:

1974年通商法122条による10%の関税発動

これを受け、トランプ大統領は直ちに1974年通商法122条に基づく関税の発動を明らかにした。同条は、「巨額かつ深刻な赤字」等の国際収支問題に対処するため、150日を超えない期間(議会により延長可)、従価税率15%を超えない関税等を課す権限を大統領に与えている。2月20日に公表された大統領布告により、2月24日から全世界に対して10%の関税(輸入課徴金)が賦課されている。

同関税は、基本的な関税率(最恵国待遇(MFN)税率)に上乗せして課される。また、1962年通商拡大法232条に基づく自動車や鉄鋼などの分野別関税と重畳的に課されることはなく、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の要件を満たす製品、米国・ドミニカ共和国・中米(コスタリカ等5か国)自由貿易協定(DR-CAFTA)の要件を満たす繊維・衣類にも課されない。さらに、付属書に掲載されている牛肉やオレンジなどの農産物や医薬品等も適用が免除される。

トランプ大統領はこれを15%に引き上げる意向を示したが、2月末時点ではまだ実施されていない。

日本企業はこれまでよりも不利になるおそれ

1974年通商法122条に基づく関税は、15%という上限や150日間という期間の制限がある。また、原則として無差別に適用されることとされているため、これまでのように国別に自由に関税率を設定することはできない。そうした点で、今回の最高裁判決は、トランプ政権による恣意的な関税賦課に一定の歯止めをかけることにはなった。ただし、短期的には日本企業には不利に働くおそれがある。

無効となったIEEPAに基づく相互関税は、日本に対しては15%が課されていたが、日米合意によって、MFN税率15%未満品目には15%、15%以上品目にはMFN税率を課す特例措置が適用されていた。しかし、大統領布告ではこれについて何も言及がない。したがって、この点について何らかの措置が取られなければ、日本には他国同様、MFN税率に10%追加された関税率が課される。つまり、MFN税率が5%超の品目の関税率は、これまでの関税率(15%)よりも高くなる(10%+MFN関税率)。122条関税が10%から15%に引き上げられれば、有税(MFN税率がゼロでない)品目すべてで関税率はこれまでよりも高くなる。

グローバル・トレード・アラート(GTA)の試算によれば、相互関税の下での対日平均関税率は14.9%だったが、相互関税の無効化により9.9%に低下、これが122条関税10%の賦課では13.5%、関税率が15%に引き上げられると15.4%に上昇し、最高裁判決前に比べて高くなる。これは、日本と同様の特例が認められていたEU(欧州連合)なども同じであり、米国と交渉を行った諸国との合意に反する。トランプ大統領の発言にもかかわらず、122条関税が現時点で引き上げられていないのは、合意履行ために何らかの対処が必要なためではないだろうか。2月23日に赤澤亮正経済産業大臣は、ラトニック米商務長官に「米国政府が新たな関税措置を取る中で、日本の扱いが昨年の日米間の合意より不利になることがないよう申入れ」を行っている(2026年2月24日、閣議後記者会見)。

他方で、日本(15%)より高い関税率を課されていた諸国は、122条関税への移行によって関税率が下がることになる。いわゆるフェンタニル関税が課されていた中国やカナダ、メキシコだけでなく、相互関税率が15%よりも高かったベトナムやマレーシア、インドなどの多くの国がこれに当たる。日本とこれら諸国との対米輸出時の平均関税率差が縮小する。

301条、232条関税へと移行の見込み

ただし、この状況は一時的なものとなるだろう。122条関税については、米国が国際収支危機にあるという要件を満たしていないとして、その発動の違法性が以前から指摘されていた。それをあえて発動したのは、次の措置への移行を想定しているからだろう。グリア通商代表は、1974年通商法301条に基づく主要貿易相手国を対象とした調査の開始や、1962年通商拡大法232条に基づく分野別関税の拡大をすでに表明している。両関税の発動には、通商代表部(USTR)や商務省等による調査で発動の必要性を示さなければならない。122条関税は、301条や232条に基づく関税の発動までの「つなぎ」の役割を果たすものだ(図表2)。

301条関税ついてグリア通商代表は、主要貿易相手国のほとんどを対象に、医薬品の価格設定慣行、米国のテクノロジー企業やデジタル製品・サービスに対する差別、デジタルサービス税、水産物や米などの貿易に関する調査を通常よりも迅速に行うとの声明を発している。また、232条関税については、すでに産業機械等に関する調査が行われている。日本や日本の主要輸出品目がこれらのターゲットになるおそれがあり、トランプ関税には引き続き注意が必要となる。

付言すれば、今回の最高裁判決は、IEEPAに基づく大統領による関税賦課を違法としたが、輸入の規制(禁止を含む)そのものを違法としたものではないことにも留意すべきだ。大統領がいわゆる「制裁」として輸入を規制することは依然可能である。

図表2:

対米投資合意も履行継続

今回の最高裁判決により、2025年7月の日米関税合意が前提としていた状況は大きく変わった。日本にとって不利な変化であり、これについては何らかの調整が必要だが、関税率に関しては122条関税の下ではトランプ政権にあまり裁量がない。

かといって、合意の履行を取りやめることは日本にとって良策とは思えない。そもそも、日本の対米輸出総額の3分の1以上を占める自動車・同部品に関する関税は232条に基づくため、今回の最高裁判決の影響を受けない。同関税は、日米合意によって、25%の追加関税がMFN税率込みで15%に引き下げられている。日米合意に基づく5500億ドルの対米投資を中止したりすれば、自動車関税が引き上げられたり、日本が301条関税の対象とされたりするおそれがある。対米投資については、第1弾の3つのプロジェクトで合意されたところだが、日本の成長や経済安全保障の確保、日本企業の利益につながるよう案件を組成していくことが賢明だろう。

これは、日本以外の各国も同様である。関税の還付問題も含め、トランプ関税に悩まされる日々は残念ながら今後も続く。

株式会社オウルズコンサルティンググループ
シニアフェロー
菅原 淳一

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