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COLUMN コラム
2025年6月25日

CSDDDとは|EU企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令の概要と企業の対応

※CSDDDは、2025年4月に一部承認されたオムニバス法案により適用開始時期等が緩和されています。本稿ではオムニバス法案を踏まえた変更可能性部分も一部含めて解説しています。

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オムニバス法案とは|サステナビリティ対応におけるポイント

1. 指令の概要

2024年7月25日、EUの企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD:Corporate Sustainability Due Diligence Directive)(以下、「本指令」)が発効しました。

本指令は、「企業の事業活動やグローバルなバリューチェーン全体において、持続可能で責任ある企業行動を促進すること」を目的として、人権や環境への負の影響を特定し、対処するためのデュー・ディリジェンス(DD)を実施することをEU域内外の企業に求めています。

加えて、本指令では大企業に対してパリ協定の2050年のカーボンニュートラル達成目標および欧州気候法の中間目標に沿った気候変動緩和のための移行計画を、最善の努力によって採用し、実施する義務も定めています。

2025年2月26日に欧州委員会が発表したサステナビリティ規制に関する包括的な緩和措置のパッケージ(通称:オムニバス法案)により、CSDDDを含む欧州のサステナビリティ関連規制の内容は一部緩和されることが見込まれているものの、CSDDDの適用対象となる企業は義務履行のためにより一層のサプライチェーン全体の管理強化およびコンプライアンス体制の整備が求められるようになります。

2. 適用対象企業・適用開始時期

本指令は、下記のいずれかの要件を2年連続で満たす企業に適用されます。

また、本指令に基づくEU加盟国による企業への環境及び人権DDを義務付ける国内法の整備については、2025年4月に承認されたオムニバス法案のうち「ストップ・ザ・クロック指令」によって期限が延期され、2027年7月26日までに行うことが求められています。

その後、従業員数や売上高の高い企業から2段階に分けて指令の適用が進められる方針が合意されています。

3. DDの要求事項

指令では、第7条から第16条にかけて実際に企業が実施すべきDDの内容が定められています。その内容は、以下の7要素のまとめることができます。

(1)DD方針の策定とリスク管理システムとの統合(第7条)

企業は、関連する自社方針やリスク管理システムにDDのプロセスを統合し、DDの実施方針を明確にする義務が課せられます。

策定する内容には、人権および環境リスクへの取組の基本原則や自社及びビジネスパートナー向けの行動規範等が含まれ、実施方法が明確に定義されている必要があります。また、リスクの特定・評価・対処を一貫して行うため、方針で定められたDDの各段階を業務プロセスに組み込むことも併せて求められます。

(2) 実際の及び潜在的な人権・環境への負の影響の特定(第8条)

企業は、人権や環境に関するリスクを洗い出して実際の及び潜在的な負の影響の評価を行い、適宜優先順位付けを行うことが求められています。(リスクベースアプローチ)

具体的には、自社の事業活動のリスク要因を元に負の影響の深刻度と発生可能性の高い事業領域を特定し、特定された領域における自社や子会社、ビジネスパートナーの事業活動が引き起こす負の影響の詳細な評価を実施する必要があります。

(3)潜在的な負の影響の予防・緩和及び実際の負の影響の対処(第9~12条)

企業には、自社の活動や子会社、ビジネスパートナーを通じて発生する潜在的な負の影響のリスクの防止・軽減、及び実際に発生したリスクの是正・緩和のための措置を講じる義務が課されています。

リスクの防止・軽減のための具体策として、方針や行動規範の導入、改善計画の策定、ビジネスパートナーとの契約による遵守義務の設定、支援提供などが例として示されています。これらの対応策は、リスクの「深刻度」と「発生可能性」の2軸から対応の優先順位を定めた上でより重要なものから順番に講じるべきであるとされています。

また、実際に発生した人権侵害や環境被害などの負の影響に関しては、速やかに是正措置を講じて被害を止めるために、事業活動の停止や被害者への賠償・救済措置などの対応をすることが例として挙げられています。

なお、指令の原案では、負の影響の防止・軽減や是正に際してビジネスパートナーとの取引関係の維持が適切でないと判断される場合は、取引停止も視野に入れるべきであると定められていました。しかしながら現在検討されているオムニバス法案ではこの取引停止義務に関する規定が削除され、一時的な取引停止に緩和すること等が提案されています。

(4)ステークホルダー・エンゲージメント(第13条)

企業には人権や環境への負の影響の防止・是正のプロセスにおいて、影響を受ける可能性のあるステークホルダーとの意味のある対話(エンゲージメント)を行う義務が課せられています。

ステークホルダー・エンゲージメントを行う際は、企業は関連する包括的な情報を適切に提供する必要があり、さらに意見交換を含む双方向的な対話であることが求められます。特に重大なリスクが懸念されている場合、企業には定期的かつ誠実にステークホルダーと対話した上で、得られた視点を対応策の設計・実施に反映させる必要があります。

なお、この「ステークホルダー」の定義は、オムニバス法案では対象企業等の従業員や子会社とビジネスパートナーの従業員のほか、製品・サービスやオペレーションによって「直接」影響を受ける個人や地域社会に限定されています。

(5)苦情処理手続きの確立(第14条)

企業は、自社の活動や子会社、ビジネスパートナーを通じて発生する潜在的な負の影響のリスクに関する情報提供や苦情申立てを受け付ける仕組みを設置する必要があります。

具体的には、企業による負の影響に関する懸念を持つ人や団体がアクセス可能な仕組みを整備し、申立ての受領・評価、必要な対応の実施、申立人への進捗状況や結果の通知を行うべきであるとされています。

(6)実効性のモニタリング(第15条)

企業には、自社や子会社、ビジネスパートナーの事業活動へのDDの措置が効果的に機能しているかを定期的に監視・評価する義務が課せられています。

なお、採択された指令の原案では、この評価はリスクの性質や重大性を考慮して少なくとも年1回の頻度で実施するべきであると定められていましたが、現在検討が進むオムニバス法案によってこの頻度は5年に1回に削減される可能性があります。

(7)実施しているDD内容の公表(第16条)

企業は、DDの取組状況について、公表する義務を負っています。この報告には、DDの実施概要、負の影響の特定結果、それらの負の影響への対応措置の内容が含まれるべきであるとされていますが、情報開示の詳細な内容及び基準については、欧州委員会によって今後具体化されることとなっています。

4. リスク評価の対象範囲

2025年4月に採択されたオムニバス法案を踏まえ、企業に求められるリスク評価の対象範囲は自社及び子会社に加えて原則として直接の取引先となることが見込まれています。

CSDDDの原案では、リスク評価の対象範囲には、自社と子会社に加えて、直接のサプライヤーのみならず、Tier 2以降のサプライヤーや販売先も含まれていました。

しかし、オムニバス法案により、この範囲の変更が提案されています。オムニバス法案では、リスク評価の対象となるバリューチェーンの範囲は、「直接の取引先(Tier 1)」に原則限定されており、Tier 2以降のサプライヤーについては人権や環境への懸念に関する信頼性の高い情報が得られた場合のみリスク評価の義務が課されています。

5. 罰則

CSDDDでは、違反企業への制裁金を含む罰則が規定されています。

原案では、対象企業による純売上高の最大5%の制裁金の支払いが定められていましたが、オムニバス法案ではこの制裁金の統一的な上限額の設定が撤回され、国内法に委ねる方針が記載されています。

また、罰則に従わなかった企業はその企業名と違反内容が公表されることとなっています。

6. 今後の見通し

オムニバス法案を受けて一部の義務が緩和されたものの、「企業の事業活動やグローバルなバリューチェーン全体において、持続可能で責任ある企業行動を促進する」ことを目的としてDDの義務化を行うCSDDDの当初の大枠は変わっていません。

オムニバス法案は、2025年末の採択を目指して欧州議会、EU理事会での検討が進められます。日本企業は、これらの議論動向を注視しつつも、既に定められているCSDDDの内容を参照しながら国連指導原則を基本とする国際基準に沿った対応を進めていくことが重要です。

株式会社オウルズコンサルティンググループ
アソシエイトマネジャー
玉井 仁和子

オウルズコンサルティンググループは、豊富な人権DD対応や人権方針策定などの支援実績を有し、労働・人権分野の国際規格「SA8000」監査人コースを修了したコンサルタントが多数在籍しています。

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